ちょっとした小話

静岡市では今、
森に関わる人たちが集まって
森を見つめ直し、新たな価値を見いだそう、
というようなプロジェクトが進行している。

そこで、林業家の方に教わった話。

杉っていう材は昔、
酒樽(たる)にして大量に使われた。

杉に赤身(茶色い部分)と白太(しらた:白い部分)があるのは、ご存じのとおり()だけど、
年輪に沿いながら、
内側に赤身、外側に白太がくるように割って使っていたらしい(緑ライン)。

白太は柔らかく、水分を吸いやすいため、
樽の内側には使わない。
逆に水に強い赤身は、内側で酒を守る役割を与えられ、
さらに、杉独特の香りを酒ににじませた。

そんな話を、たまたま同じテーブルに居合わせた6人が
食い入るように聞いていた。

これぞ、適材適所
材の特性を見抜き、ものづくりに忠実に生かした先人の知恵。
すばらしい、と一同感嘆の声。

こういう話は、
木に関わる仕事に就いているとか就いていないとか関係なく、
わりとみんな、興味がある。
木に対する愛着と、ものづくりへの探求心。
わたしたち日本人は、多分忘れていない。

林業家の片平さんは、
どうやらこういう小話をいっぱい持っている。
もっと聞かせてもらおうと思ったけど、
忙しそうで、ささっと姿を消してしまった。

杉樽の話には、続きがあった。

京などの上方でつくられた酒樽は、江戸に運ばれ、
それが「下り酒」と呼ばれた。
品質が非常によかったので、高級酒として喜ばれた。
それに比べて、江戸でつくられたものは品質が劣るので、
「下らないもの」と呼ばれた。
「くだらない」は、ここからきたという。

江戸で消費されなかった酒樽は、
再び上方へ戻ることもあった。
それを、戻り鰹(カツオ)ならぬ、「戻り酒」とも呼んだらしい。

おしまい。