杉のいいところ

とある本を読んでいたら、とある建築家の言葉が目に飛び込んできました。
「私は杉が嫌いだ」、と。

ムムと思い読み進めていくと、氏のいう理屈はこう。
「杉は木目の線が多すぎる。」

そうそう。
確かに杉は木目がはっきりしていて、
グロテスクというか、木自体が結構主張しています。
その濃淡が美観に合わないという方もいらっしゃるのは、確かに。
うなずけます。

でも、ヒノキや杉を積極的に使用するヒノキクラフトとして、
杉の悪口をそのまま放置しておけないので、
ちょっと弁護させてもらおうと思います。

・杉のいいところ、その一
【美しい。】

杉といっても、産地や部位によって表情がものすごく異なります。
また、赤味と白太(赤い部分と白い部分)のコントラストがはっきりしているので、
一般的に杉というと、この不均一で素朴なイメージが先行してしまいます。

これが、極端な赤(というか黒)と白。

でも、この赤と白の中間の「淡いピンク」があるのですが、
これはもう、本当にただただ美しいと思います。
これなら杉嫌いな方でも、きっと見直してくれるはずです。

淡いピンク色の板はこんな感じ。

ヒノキクラフトでは時々、美しい板を扉の「鏡板」として用います。
割ったときにこれはいい、と思えば、鏡板用に取っておきます。
鏡板は目につくところですから、人間でいえば「顔」です。

以前製作した茶箪笥にも、美しい鏡板を使いました。

多彩な表情を持つ杉は、ときどきはっとするほどの美しさを隠し持っています。
美しい木目は、家具の中でも人目につく場所に、
グロテスクな部分は見えない部分に(例えば引き出しの中とかベッドのすのことか)使うのが、
ヒノキクラフト流、です。

・杉のいいところ、その二
【暖かい。】

杉は、ヒノキに比べれば柔らかいです。
それはつまり、密度が低くて中身はわりとスカスカ、ということ。
そのスカスカ感を、先の建築家は野菜みたいだと揶揄していましたが、
その分熱が伝わりにくく、寒い日でもひんやりと冷たくならないという特質を
見逃してはもったいない。

これが身にしみてわかるのが、床。
以前、倉庫の一角をショップにしていた頃、床材をヒノキにしていました。
ヒノキは艶やかですが、真冬はひんやりと冷たくなります。
楢や桜、栗などの広葉樹は、もっと冷たくなります。

一方で、杉。
青葉通りのショップは、40ミリの分厚い杉材を使いました。
どうせなら、このくらい厚いのがオススメ。
足が触れた感触がよく(しっとりと吸いつく感じ)、突き返されるような冷気は感じません。

杉は柔らかくて傷がつきやすいから、床材として不向きだという方もいらっしゃいますが、
この暖かさを無視して選択肢から外してしまうのは、あまりに惜しい気がします。

また、床に杉を使ったら、それこそグロテスクではないかという方には、
ダークブラウン系の着色がオススメ。
木目が浮き立ちますが、強烈な木目が沈静化されます。

また、板の張り方でも、ずいぶん木目の表情が違って見えます。
床の長手に沿って杉板も長手に張ると、木目が際だってしまうので、
床の短い方向に沿って張ってみると、ずいぶん印象がちがいます。
落ち着きのある、静かな表情があらわになります。

 

ヒノキクラフトがヒノキを使うのは、
たまたま静岡でヒノキがたくさん採れるからであって、
どこでも簡単に手に入る素材ではないようです。

一方で杉は、日本各地に産地があります。
それだけ手に入りやすいので、杉のいいところを受け止め、積極的に使っていきたい素材です。

美しいと思える杉の表情があって、
日本人でよかったと思える杉の暖かさがある。

私は杉が好きです。